二人で恋を始めませんか?
流れるような運転の仕方に、茉莉花は心の中で感心する。

(ブレーキもゆっくりだし、ハンドルの切り方も丁寧。乗り心地いいな)

普段は車に乗る機会がなく、久しぶりだから酔わないかと心配していたが、これなら大丈夫そうだと安心した。

運転の邪魔にならないように黙っていたが、高速道路に乗ってしばらくすると思い切って口を開く。

「あの、部長は普段からよく運転されるんですか?」
「ああ、そうだな。休日はたいてい走らせてる」
「お好きなんですね、ドライブ」

何気なくそう言うと、優樹は気まずそうに押し黙る。

(あれ? 私、何か変なこと言ったかな)

妙な雰囲気に、茉莉花も口を閉ざした。
そしてふと思い出す。

(あっ、もしかしてあれ? 優くんメモ! そうだ。確か部長が目にした最初のページに、車が好きで休日はドライブする、とか書いた気がする。って、待って! あの優くんメモの特徴、白瀬部長にピッタリ当てはまるんじゃ……)

心の中で考える。
身長 180cm、うんうん多分それくらい。
年齢 30歳、小澤課長と同期ならそのはず。
サラサラの黒髪、まさにそれ。
寡黙でシャイ、多分そう。
キザなセリフは言わない、でしょうね。
私服はシンプルなモノトーンコーデ、じゃないかな、きっと。

今更ながら、ヒーッ!と焦った。

(なんでまた、こんなに当てはまるの? 極めつけは名前! 優くん、なんて。はっ、もしや! 部長、勘違いされてないかな? 私が部長のことを好きだって)

急にソワソワし始め、ちらりと運転席に目を向ける。
優樹は真っ直ぐ前を見たままで、その表情からは何もうかがい知れない。

(どうしよう、勘違いされてたら。はっきり言う? 私が好きなのは小澤課長ですって。いやいや、ダメでしょ)

焦りと沈黙に耐えかねて、茉莉花は思わず口走る。

「あの、小澤課長ですが……」
「ん? 課長がどうした?」
「いえ、あの。あっ、ご結婚のことは、部長はご存知だったのですか?」
「ああ。同期のグループメッセージで報告を受けていた」
「そうだったんですね」

話が途切れると、今度は優樹が取り繕うように続けた。

「プライベートなことだから、オフィスのみんなには大々的に発表はしないと言っていた。急なことで驚いたかな? みんなを混乱させていたらすまない」
「そんな、部長が謝ることではありません。それにおめでたいお話ですもの。みんなでお祝いしたいと思っています。お二人の結婚式はこれからなのでしょうか? 」
「それが先週末に、身内だけで式と食事会を済ませたそうなんだ。同期のメンバーが、改めてパーティーを企画すると言っていた。清水さんや乾さんたち、若いメンバーも参加してくれると嬉しい」
「はい、それはぜひ」

茉莉花のその気持ちに嘘はない。
心から二人を祝福したい。

(お二人の幸せそうな姿を見たら、きっと諦めもつくよね)

そう思いながら、窓の外に流れる景色を見つめた。
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