二人で恋を始めませんか?
打ち合わせが終わると、駅周辺を散策して観光スポットをチェックした。

「もうすぐ花火大会があるんですね」

ポスターに目を留めて茉莉花が言う。

「ああ。鎌倉の花火大会は、水中花火で有名だな」
「水中花火、ですか?」

初めて聞く言葉に、茉莉花は隣を歩く優樹を見上げた。

「そう。海に投げ込んだ花火が、水面で扇状に美しく開くんだ。波や潮の流れを計算しなくてはいけないから、花火師の神業とも言えるけど、実は始まりはうっかり海に花火を落としたことがきっかけだったそうだ」
「そうなんですね! 見てみたいなあ。カフェのリニューアルも花火大会を前に終わる予定ですし、ホームページで情報をどんどん発信すれば、お店も注目されそうですね」
「そうだな。カフェのおすすめメニューだけでなく、サーファー向けに今日の波の様子や、観光客向けにモデルコースなんかも更新して」
「ええ。お客様からも情報を書き込んでもらったり」
「いいな。掲示板として賑わえば、アクセス数も上がる。毎日チェックしたくなるホームページにしていこう」
「はい!」

その後もあちこち歩きながら、観光名所やおみやげ、ホテルやお店を見て回った。

「すっかり遅くなったな。清水さんさえよければ、この辺りで夕食を食べて行かないか?」
「はい、ぜひ。実はさっきもらったパンフレットで気になるところがあって」
「どこ?」
「ここです。古民家をフルリノベーションしたオーベルジュなんですけど、レストランのみの利用も可能だそうで。日を改めて行ってみようと思ってたところなんです」
「それなら今から行こう」

パーキングに戻り、車で向かう。
5分ほどで着いた先は、築160年の歴史が感じられる、緑に囲まれたオーベルジュだった。

「へえ、いいところだな。趣があって、昔の鎌倉にタイムスリップした気分だ」
「ほんとですね。静かで上質で、贅沢な時間が過ごせそう。泊まりたくなっちゃいます。100平米のスイートルームが3部屋あるだけなんだそうですよ。見てみたいなあ」
「すごいな。ある意味、都会の一等地のホテルよりも価値がある」
「そうですね、まさにそんな感じです」

フロントでにこやかに出迎えられ、レストランを利用したいと告げると丁寧に案内してくれる。
オープンキッチンのこじんまりとしたレストランで、シェフと和やかに会話しながら美味しい創作料理を味わった。

食後のコーヒーを飲みながら、茉莉花は窓の外に目をやって呟く。

「素敵ですね、鎌倉って。花火大会も見に来ようかな。見てみたいです、水中花火」

するとシェフが目を細める。

「ぜひいらしてください。よろしければ、花火のあとにこちらでお食事もどうぞ。今ならまだ予約に空きがありますよ」
「そうなんですね! じゃあ、本当に来ようかな。予約、お願いしてもいいですか?」
「かしこまりました。2名様ですね」

聞かれて茉莉花は、え……と戸惑う。
ちらりと隣に目を向けると、優樹はシェフに頷いた。

「はい、2名で予約お願いします」

そう言ってから、茉莉花に小さくささやく。

「乾さんを誘ったら?」
「えっ、あ、そうですね」

もう一度優樹と二人で来ることを考えていた茉莉花は、恥ずかしさにうつむいた。
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