鉄の女社長は離婚したいのに人たらし御曹司に溺愛される

笑顔は必要だと思った時に作るもので、今がまさにそれだ。

表面上は昴と良好な人間関係を築きたい。

「鉄仮面」

「えっ?」

「絢乃さんの笑顔を見ていると、そんな言葉が浮かびました」

(本音で話していないという意味? そんなのお互い様でしょう。ビジネス婚でも笑顔で気が合うフリをした方が楽なのに)

昴の印象が悪い方へ急降下した。

余計に結婚が憂鬱になったが、その気持ちも隠して笑顔をキープする。

「鉄仮面ですか。ユニークな言い方をされますね。私の方はますます惹かれるところですけど、昴さんはこの結婚を望んでいらっしゃらないのでは? もしそうでしたら、父におっしゃってください。強引な父ですが、昴さんからのお断りなら諦めると思うんです」

父の命令に従い、結婚話を進めるために努力はした。

その結果が破談なら、父だってそれほど絢乃を責めないだろう。

(その方が私も都合がいい。断ってくれないかしら)

返事を待っていると、彼の右手が伸びて指先が絢乃の頭に触れた。

驚いて肩を揺らし、笑みが崩れる。

「失礼。これがついていたもので」

彼がつまんで見せてくれたのは小さな蜘蛛だった。

「キャア!」と声を上げて、持っていたクラッチバッグを落とした。

緑豊かな場所なら仕方ないと思うけれど、虫は苦手だ。

後ずさろうとしたが白砂にヒールが取られて転びそうになる。

とっさに伸びた彼の左手が絢乃の腕を捕らえてくれたので転ばずにすんだが、右手の蜘蛛を恐れて顔が強ばったままだ。

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