鉄の女社長は離婚したいのに人たらし御曹司に溺愛される
低木の葉の上に蜘蛛を逃がした昴が心配してくれる。

「大丈夫ですか?」

「え、ええ。大袈裟に驚いてすみません」

高まった鼓動がまだ落ち着かない。

「こちらこそすみません。見せずに払えばよかった。平気だと思ったもので」

(どういう意味?)

虫に動じないくらい強そうに見えたのだろうか。

落としてしまったクラッチバッグは絢乃が屈む前に昴が拾ってくれた。

「ありがとうございます」

やっと動悸が鎮まって笑みを作り直すと、じっと真顔で見つめられた。

(今度はなんなの……?)

「質問に答えます。私が絢乃さんとの結婚を決めたのは、鉄仮面を外してみたいと思ったからです」

頬の筋肉に力を入れていなければ笑みが崩れてしまいそうだ。

(どういう思考をしているのよ)

「そうなんですね。よくわかりました」

「おかしいですか?」

「いいえ。鉄仮面? かぶっている自覚はないですけど、そう思わせてしまったなら謝ります。早く打ち解けられるように努力しますね」

(おかしな人ね。打ち解けられる気がしないわ)

彼の方からも断る気がないようなので、このまま結婚に向けて突き進むしかない。

それならばどうすれば別れられるだろうと、早くも離婚についての算段を始める。

父の最終的な望みは、親友と自分の血が入った孫の誕生だ。

優秀な孫に、なにより大切にしている自分の会社を継がせたいということだろう。

太鼓橋の上で子供がはしゃぐ声がした。

昴の視線がそちらに向いてホッとする。

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