鉄の女社長は離婚したいのに人たらし御曹司に溺愛される
笑みを強めて手を振り、三条家の玄関を出る。

(月命日にお供えだけ送らせてもらおう。お母さんもきっと、それがいいと言ってくれるわ)

タクシーを呼ぶ前に外に出てしまったので、駅までの十分ほどの道のりを歩くことにした。

ぎらついていた太陽は雲に隠れている。

蒸し暑いが幾分歩きやすい。

門を出て右に行こうとすると、逆側から声をかけられる。

「絢乃さん」

昴が立っていたので驚いた。

「どうしたの?」

「散歩だよ」

Tシャツ姿で鞄はなく格好だけ見るとそんな感じだが、帰国したばかりで疲れているのに暑い屋外を歩きたいとは思わないだろう。

「迎えに来てくれたのね。大丈夫だと言ったのに」

「余計な心配だったら、すまない」

「その通りと言いたいところだけど、そんなに大丈夫でもないの。来てくれてありがとう。駅まで歩きながら話すわ」

三条家での結果を報告する約束は守るつもりだ。

閑静な住宅街の車線のない細道を並んで歩く。

車も人通りも少なく、蝉の声だけが賑やかだ。

「というわけなの。美沙さんをずいぶんと傷つけてしまって本当に申し訳ない。だから当分の間、行かないわ。美沙さんが三条家で自分の居場所をしっかり作れたら、また月命日のお参りをしていいかを相談するつもり」

帽子の鍔が広いから、昴に顔を見られずにすんで助かった。

今は笑みを作るのもしんどいからだ。

「私の居場所でもあったんだけど、仕方ないわよね。私は家族じゃないんだから。三条家のみんなが幸せならそれでいいわ」

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