鉄の女社長は離婚したいのに人たらし御曹司に溺愛される
意識して大きく息を吸った。

そうしないと胸が潰れてしまいそうだった。

すると黙って聞いてくれていた昴が口を開く。

「絢乃さんの家族は俺だよ」

「え? そう言われると、そうね」

(家族を失ったような言い方をしたから、気に障った?)

帽子の鍔を少し上げて彼の方を見たが、視線は合わない。

少し先の地面を見ているようで、「あっ」となにかに気づいたような声を上げた。

(なに?)

小さな公園の入り口で昴がしゃがむ。

「見っけ」

彼らしくない少年のような口調に戸惑いつつ近寄ると、摘み取った四葉のクローバーを見せられた。

「もうひとつあった。ここにも」

「すごいわ。どうしてすぐ見つけられるの?」

「子供の頃からの特技なんだ。四葉のクローバーだけ、緑色が少し違って見える」

(あれ……)

今と同じような会話のやり取りを、ずっと前に誰かとしたような気がした。

記憶を探ったが思い出せない。

(気のせい?)

「どうした?」

立ち上がった昴に問われてハッと我に返った。

「四葉のクローバー探しが得意な知り合いがいた気がしたんだけど、思い出せなくて。いたとしても子供の頃の話よ。気にするほどのことじゃないわ」

「そう……」

昴に四葉のクローバーを差し出された。

「あげるよ。マスコットのお礼に。これじゃ失礼か」

「そんなことないわよ。ありがとう。今日はあなたからふたつもプレゼントをもらったわ」

エプロンも四葉のクローバーも嬉しい。

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