鉄の女社長は離婚したいのに人たらし御曹司に溺愛される
絢乃が弱くないのは知っていたはずなのに、それでも迎えに行ったのは頼られたかったからなのかもしれない。

実際は慰めも不要な様子で、彼女がひとりで出した結論を聞いただけだったが。

強がっているのだろうとも思うけれど、今の関係ではまだ胸を貸すから思いきり泣けばいいとは言えなかった。

けれども思わぬ収穫もあった。

『四葉のクローバー探しが得意な知り合いがいた気がしたんだけど、思い出せなくて――』

絢乃が言ったその知り合いとは、少年の頃の昴だ。

はっきりと思い出してもらえなくて残念だが、幼い頃に別荘で一緒に過ごした夏の記憶がわずかでも残っているようだ。

最近、昴はあの夏をよく思い返している。

(絢乃ちゃんと呼んでいたんだ。あの子に指摘されるまで俺は嫌なガキだった。そのまま成長していたかと思うとゾッとする)

思い出すたび小さな女の子が鮮やかになり、それと同時に今の彼女との夫婦仲を深めたくなった。

(ビジネスだけなんてもったいない。せっかく夫婦になれたんだから、愛を求めてもいいだろ?)

絢乃に惹かれ始めたのを自覚している。

才色兼備で家柄のいい非の打ちどころのないお嬢様。そこに魅力を感じているわけではない。

むしろ料理や裁縫が苦手なところや、人を頼れない不器用さに惹かれる。

真面目でひたむき、一生懸命な人柄が一緒に暮らす中で伝わってきた。

ただ一点、残念に思うのは鉄のような硬い笑顔だ。

心に踏み込まないでと言われている気がして、一気に距離を詰められない。

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