鉄の女社長は離婚したいのに人たらし御曹司に溺愛される
(子供ができれば別れられるかしら?)

孫さえいれば、離婚しても父は許してくれるだろう。

目論みが甘い気もするが、そうでも思わないと結婚に向けてモチベーションを保てない。

昴は太鼓橋にいる男の子と女の子の幼い兄妹に視線を留めていた。

なぜか懐かしいものでも見ているような目をする彼の横顔は、凛々しくて美しい。

客観的に見て彼は〝いい男〟だと絢乃も感じているけれど、夫婦になりたいとは少しも思えなかった。



親族顔合わせの日から半月ほどが過ぎ、六月に入った。

週初めの月曜は報告とそれに対して指示することが多いので忙しい。

時刻は間もなく正午で、午前中にふたつの社内会議を終えた絢乃は社長室に戻るため最上階の廊下にパンプスの靴音を響かせていた。

この自社ビルは十二階建てで、千五百人ほどが働いている。

本社の他に日本各地に十八の営業所があり、関連子会社は複数ある。

それらを含めた社員数は一万人近い。

秘書課の前を通りすぎ、四つ目の重厚感ある木目のドアを開けて入った。

手前には二十人ほどで囲めるミーティングテーブルがあり、その横に応接セット、奥の窓際にL字形の執務机を置いている。

会議資料をデスクに置いた絢乃は軽い頭痛を感じてこめかみを押さえた。

先ほどの会議では重要なプロジェクトに問題が発生したと報告を受け、追加予算を組むことを決めた。

出席していなかった会長――つまり父親への報告を思うと頭が痛んで当然だ。

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