鉄の女社長は離婚したいのに人たらし御曹司に溺愛される
和志と偶然に再会したのはひと月半以上前になる。

その時に自分たちが友人関係にあるのは、絢乃が気づくまで秘密にしようと冗談めかして言われた。

それを守っていたわけではないが、言いそびれたままである。

寂しさをこらえて三条家と離れる決意をした絢乃には余計に言い出せなくなり、隠し事をしている後ろめたさを覚えた。

「わかったわ。明日は遅くなるということね?」

なにも気づかない様子で、絢乃がキッチンに向かった。

「いつもより少し遅い程度だよ。きっと君より帰宅は早そうだ。忙しいんだろ?」

「ええ。でも今後は私も早めに帰る努力をするわ。早めに片づけてしまいたい性分なんだけど、それじゃいけないと思って」

冷蔵庫から五百ミリリットルの緑茶のペットボトルを出した彼女が振り向いた。

フッと目を細め、唇が緩やかに弧を描く。

作りものとは違う自然の笑みに、鼓動が跳ねた。

「昴さんと過ごせる時間が減ってしまうでしょ? 料理の腕前が上がらないもの」

一緒に夕食を作って食べたいという意味だろう。

昴の鼓動を高めておきながら恥ずかしくなったのか、絢乃はすまし顔をして食器棚の方を向いた。

彼女がペットボトルに直接口をつけるのを見たことがない。

いつもわざわざグラスに注いで飲んでいる。

今もグラスを出そうとしている彼女に近づき、思わず後ろから肩を抱いた。

「きゃっ、どうしたの?」

触れたい衝動に駆られてしまったが、すぐに手を離す。

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