鉄の女社長は離婚したいのに人たらし御曹司に溺愛される
夫と義理の両親が自分を一番に考えてくれているのが伝わったから、精神的に落ち着いてきたということだろうか。

絢乃にそれを教えてあげられないのは残念だ。

「絢乃、笑って過ごせてる?」

「ああ」

「それって、本物の笑顔か?」

自然な笑みを向けてくれたのは、まだたったの数回だ。

和志の指摘が胸に刺さり、返事ができなかった。

「昴が言うように絢乃は強いよ。でも、我慢強いだけなんだ。無理して強がって自分を保ってる。そういうのってキツイだろ。心を休められる拠り所が必要だと思うんだけど、俺はもう力になれないから……お前に頼みたくて今日は呼び出したんだ」

(強いではなく、我慢強いか。たしかにそんな気がする)

和志の方が絢乃を理解しているのを当然だと思う一方で、悔しくもなった。

絢乃が泣きついてくれたら遠慮なく助けてあげられるのに、平気そうな顔をされると彼女が抱える問題に立ち入りにくい。

(俺の方から踏み込むべきなんだろうか……)

泡の消えたグラスビールを見つめながら考えたが、すぐに答えは出せない。

「拠り所になれるかどうかわからないが、俺は絢乃さんを支えたい。好きなんだよ」

言葉にしてみて、恋愛感情をはっきりと自覚した。

ビジネスではなく、心が通い合った本物の夫婦になりたい。

この気持ちを絢乃にも伝えたいが、せっかちに想いを告げてしまえばせっかくここまで縮めた距離が開く気がした。

(もう少し時間をかけよう。自然な笑顔をもっと見せてくれるようになってからだ)

< 114 / 237 >

この作品をシェア

pagetop