鉄の女社長は離婚したいのに人たらし御曹司に溺愛される
目論見が甘いと叱責を受けるのが目に見えているからだ。

(いちいち会長の顔色を窺わなければならないのも今だけよ。五年後には追い出して見せる)

母を苦しめて死なせた父を絶対に許さない。

娘の自分が母の無念を引き継いで代わりに復讐する。

そのためなら泣き言を言わずになんでもすると決めていた。

その復讐とは、父が作り上げてなにより大事にしているこの会社から父を追い出すことだ。

社長としての実績を積んで、誰も意見できないほどの力をつけてから父を解任する。

その目標達成を五年後に設定していた。

どろりと重たい気持ちが胸に広がり、息苦しさを覚えた。

執務椅子に腰を下ろす前にブラインドの隙間から外を覗くと、そこは片道三車線の大通りだ。

雨上がりの空はまだ分厚い雲が広がっていて薄暗い。

高層ビルの谷間を走る車列は排気ガスを吐き、街路樹の葉の一部が茶色くなって枯れていた。

(見るんじゃなかったわ)

少しも気分転換にならず諦めて座り、デスク上の固定電話から秘書課に連絡する。

絢乃の担当秘書は二十九歳の女性で大野という。

社長に就任してからのわずか半年で担当を三人替えた。

絢乃が求めるレベルの仕事をしてくれなかったからで、四人目の大野でやっと落ち着いた。

優秀な彼女にはそれに見合うだけの給与は支払っている。

前任の三人には秘書課から出てもらった。

「大野さん、十三時からは予定通り銀行よね?」

銀行対応を財務職員任せにしないのが絢乃の方針だ。

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