鉄の女社長は離婚したいのに人たらし御曹司に溺愛される
こんな時こそ親友の励ましが必要でショルダーバッグから出したが、話しかけずに戻す。

頭に浮かんだのは、親友に似せて作ったもうひとつのマスコット人形だ。

今頃、彼も同じように見つめているかもしれないと考えてしまったからだ。

(プレゼントしたのは失敗だったわ)

机上を片づけてから社屋を出て、電話で呼んだタクシーに乗り込んだ。

いつもはもったいないと感じる移動時間が、今はもっと長ければいいのにと思う。

けれども夜道は空いていて、あっという間に着いてしまった。

(待ちくたびれて寝ていてくれないかしら)

バーを出たばかりの時よりは怒りが引いているけれど、まだ心でくすぶっている。

時間が経っても完全に冷静でいられない自分を意外に思っていた。

昴とならこのまま夫婦を続けられそうだと思っていた矢先だったから、失望も大きいのだろうかと自己分析する。

(え? 私、夫婦を続けたいと思っていたの?)

疲労のせいか、それとも怒りのせいなのかわからないが、自分の気持ちが見えなくなる。

それについてはいったん頭の隅に寄せ、玄関の電子錠を解錠した。

廊下まで明るい電気がついていて、その奥のリビングドアの隙間にも光が見えた。

玄関を開けた音が聞こえたようで、昴がリビングから出てきた。

着替えてはいるが部屋着ではなく、外出できそうな服装だ。

「おかえり」

ホッとしたように微笑む彼が憎らしい。

「ただいま」

「夕食は食べた?」

「ええ」

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