鉄の女社長は離婚したいのに人たらし御曹司に溺愛される
五歳の自分の言葉なんて少しも覚えていないが、彼がそう言うのならいいことをしたのだろう。

ほんの少し自尊心が膨らむと、もっと当時の話が聞きたくなる。

「他にはどんなことがあったの?」

「そのあとは昼食を取ってから、子供だけでプールで遊んだんだ。友達が大はしゃぎするから君の顔に水を浴びせてしまって。君は先にプールから上がったよ。俺が謝りに行ったら――」

『気にしないで。男の子ってやんちゃな遊び方をするものよね。わかっていたわ』

絢乃がそう言ったそうだ。

妙に大人びた言い方で小憎らしい。

「私、その頃から可愛げがなかったようね」

思わず苦笑すると、昴が首を横に振った。

「言い方は大人びていたけれど、素直で純粋な子供だったよ。四葉のクローバーをあげると、とても喜んでくれた」

(それって……)

二十日ほど前の三条家からの帰路を思い出していた。

『見っけ!』

四葉のクローバーを見つけた昴が子供のような言い方をした理由は、五歳の夏を思い出してほしかったからではないだろうか。

『子供の頃からの特技なんだ。四葉のクローバーだけ、緑色が少し違って見える』

同じことを誰かに言われた記憶があったのに昴だとは思わず、がっかりさせたのに今気づいた。

(あの時に言ってくれたらよかったのに)

四葉のクローバーは押し花にして、自室の引き出しにしまってある。

五歳の時にもらったものはどこへ行ってしまったのだろうか。

それも押し花にして取っておけばよかったと惜しい気持ちがした。
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