鉄の女社長は離婚したいのに人たらし御曹司に溺愛される
『お顔をあげたかったの。そうしたら他の人から取らないでしょ? みんな助かると思って。ひとりで出かけてごめんなさい――』

思い出せる限りの当時のことを話しながら、絢乃は苦笑した。

「素直な子供らしいところもたしかにあったわね。あんな作り話を簡単に信じてしまうんだもの。呆れるわ」

「俺はあの時、感心したんだよ」

「あなたにも迷惑をかけたのに?」

「いなくなって焦ったけど迷惑とは思わなかった。妖怪にも心を砕く優しさと、恐怖心を乗り越える勇気と行動力。六歳も年下の君が大きく感じられて尊敬したんだよ」

その言葉が胸にしみ込む。

父に褒められることのなかった幼少期の努力が、報われる気がした。

「優しいのは昴さんよ。あのあと、折り紙の顔を祠にお供えしてくれたわよね」

すぐに別荘に戻ろうとする父を止め、祠の前に一緒に立って手を合わせてくれた。

『喜んでる声が聞こえたよ。もう誰の顔も取らないって。絢乃ちゃんのおかげだね』

『うん!』

絢乃の気持ちを汲んで、そう言ってくれたのだ。

「ホッとした気持ちも思いだしたわ。父に叱られたけど、やってよかったと思えたのよ。昴さんは自分を傲慢だと言ったけど、私は頼りがいがあって優しく信頼できる男の子だという印象だったわ」

「ありがとう。俺は折り紙を供えたあとの君の笑顔が印象的に残ってる。夜なのに眩しいくらいに無邪気で純粋で可愛かった。もう一度、君をあんな笑顔にさせてみたい」

(大人なんだから無理よ……)

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