鉄の女社長は離婚したいのに人たらし御曹司に溺愛される
そのせいでスキンシップがやけにあっさりしているように感じてしまう。

本物の夫婦を目指そうと話したのはひと月近く前で、それからの彼は積極的に触れてくる。

出かける時や寝る前の挨拶には必ずハグがついてきて、リビングにいる時は手を繋いできたり肩を抱き寄せてきたり、料理中もやけに距離が近い。

そのたびに絢乃は鼓動を高めてしまう。

中でも一番恥ずかしかったのは、三日前の夜に湯上りの彼の腕や胸の筋肉に触れた時だ。

『君からも触れてほしい』と求められての行為だが、結構勇気がいった。

自宅ではそのような調子なので、軽い握手だけだと物足りなく感じた。

(昴さんの筋肉はすてきよね。恥ずかしくて緊張したけど、もう一度触れてみたい)

ネイビースーツの彼の背を見送りながら三日前を思い出すと、心なしか頬が熱くなる。

すると急に彼が振り返った。

気持ちを読まれた気がして動揺する。

「絢乃さん」

そばまで戻ってきた彼に小声で名前を呼ばれ、絢乃もつられて声を潜める。

「どうしたの?」

「今日は何時に帰れそう? さっきはみそ汁と言ったけど、ラーメン気分なんだ。一緒に食べにいかない?」

「ええ。十九時半頃まで待っていてくれるなら行けるわ」

「ありがとう。ちなみに絢乃さんは魚介と鶏ガラ、豚骨の中でどのスープが好き?」

ラーメン屋に入ったのは数えるほどしかない。

最後に食べたのはいつだったのかも思い出せないほどなので、好みを聞かれても困る。

「どれでもいいわよ」

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