鉄の女社長は離婚したいのに人たらし御曹司に溺愛される
「よくないよ。君に決めてもらいたい。考えておいて」

ヒソヒソと真顔で相談していたので、昴の会社の社員たちは仕事の話だと思ったようだ。

廊下に出た彼に「なにか問題がありましたか?」と尋ねている声が聞こえた。

絢乃も事業部の部長から同じように声をかけられたので、一拍黙ってから正直に答えてみる。

「ラーメンの相談よ」

「ラー……えっ? すみません、なんとおっしゃいましたか?」

聞き間違えだろうかという顔をされて、苦笑した。

一方、廊下からは昴の会社の社員の笑い声がする。

(やっぱり、私が言ってもダメなようね)

「大した話はしていないわ。エレベーターまで見送りましょう」

社内に昴がいると調子が狂う。

ということは仕事中と自宅にいる時とでは、心の持ちようがかなり違うのだろう。

結婚当初に比べていい方に変わったのを自覚したが、今は仕事モードに気持ちを戻さなければならない。

(仕事中は鉄でいいのよ)

昴たちを見送ってから、いくつか指示をして事業部の社員たちと別れた。

十二階に上がって社長室に戻る前に秘書課に寄った。

立花リアルエステイトの社員からもらった名刺を、担当秘書に預けるためだ。

名刺をファイリングしていつどこで会ったのかを記録しておくのは、秘書の仕事としている。

白いドアは閉じていて、ノックしようと持ち上げた手が止まった。

いつもは静かな秘書課がやけに賑やかだ。

思わず聞き耳を立てる。

「そうですね。イケメンだと思いました。噂の百倍くらいは」
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