鉄の女社長は離婚したいのに人たらし御曹司に溺愛される

担当秘書の大野の声だ。

「そんなに?」

「私もお出迎えしたかった!」

大野の声は落ち着いているが、それを聞いている他の秘書がはしゃいでいた。

(誰の話?)

過去にCMに起用した俳優を社に招待したことがある。

それを思い出して芸能人の来社予定があっただろうかと首を傾げていると、秘書たちがまた賑やかに話しだす。

「会議、そろそろ終わる頃じゃない? 見にいっていい?」

「秘書の見送りはいらないと言われています」

「そこをなんとか。挨拶だけさせて」

「既婚男性を狙うんですか?」

「ミーハーなだけだから。うちの社長に勝負を挑むわけないでしょ。怖すぎるわ」

(ああ、昴さんの話か)

思わずため息をついた。

秘書課は女性ばかりで二十代が多く、素敵な男性に興味を引かれるのは仕方ないと思う。

真面目にそつなく仕事をしてくれるなら、部署内で少々浮かれた話をしても怒らないけれど、自分の夫をそういう目で見られたくない。

そう思う一方で、昴はかっこいいから興奮気味に騒いでしまうのも無理はない気がした。

(入りにくいわね)

一度下ろした手でノックを試みるが、またできなかった。

先ほどよりは小さめの声だが、まだ噂話は続いている。

話題の中心は絢乃に変わったようだ。

「ねぇ、ここ最近、社長が優しくなったと思わない? イケメン旦那様のおかげかな」

「優しいかどうかはわかりませんが、柔らかくなった気はしています」

< 143 / 237 >

この作品をシェア

pagetop