鉄の女社長は離婚したいのに人たらし御曹司に溺愛される
「絢乃さんが謝ることじゃございません。暑いのに立ち話をしてしまいましたね、さぁ早く中へお入りください。冷たい紅茶をリビングにお持ちします」

「今日はなにもいらないわ。用を済ませたらすぐに帰るつもりだから。お母さんはリビングにいるのね。唯華も?」

「ええ。旦那様もいらっしゃいます」

(お父さんまで?)

広い玄関でパンプスを脱いで上がり、眉根を寄せた。

ふたりがかりで離婚しろと言ってくるのは予想していたが、そこに父まで加わっているとは思わなかった。

いや、いくら唯華に甘いといっても父が離婚に賛成するとは思えない。

大切な取引先である立花リアルエステイト社との良好な関係にひびを入れたくないだろう。

それに亡き親友との約束も父にとって大切なものだ。

涼しい廊下を進みリビングのドアの前に立つと、中から唯華の声がした。

父になにかを訴えている。

「パパ、どうしてダメなの? お願いよ」

「絢乃と昴くんの結婚は、親友との約束だったんだ」

「亡くなった友達より、私の方が大事でしょ? あんなに素敵な人、他にいないわ。私が昴さんのお嫁さんになるから、お姉ちゃんを離婚させて!」

「できないんだよ、唯華。わかってくれ」

(やっぱりそうなのね)

大野から話を聞いた時にはすでに、こうなる予感はしていた。

予想外だったのは、絢乃に離婚を迫る前に父を説得しようとしたことだろうか。

今度は父の態度に深いため息をつく。

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