鉄の女社長は離婚したいのに人たらし御曹司に溺愛される
絢乃には幼い頃でもワガママを言わせなかったのに、唯華を宥めようとしている声は優しかった。

姉妹で父の愛情に差があるのはとっくにわかっているので今さら傷つかないが、膝を抱えた子供の頃の自分を思い出すと胸が痛む。

(あの頃の私は可哀想ね。悲しかったということは、愛してほしかったんだわ。でも今はどうでもいい。むしろ愛されても困るだけよ)

復讐の炎を消すわけにいかないからだ。

室内からは続いて継母の声がする。

「唯華がここまで言うんだから、考えてあげてちょうだい」

「お前までなにを言うんだ。結婚も離婚もそんなに簡単にできるものじゃないだろ」

「そうよね。私が身籠っても、あなたは前妻とすぐに離婚してくれなかった。唯華が二歳になるまで私は愛人と呼ばれなければならなかったのよ。どれだけ屈辱だったかわかる? あなたの優柔不断のせいで、私生児にされた唯華は本当に可哀想」

ドアを開けずとも、父が難しい顔をして黙り込んでいるのが見えるようだ。

今までも継母は思い通りにならないと、その件を持ち出して父を閉口させてきた。

急に背中が寒くなる。

(まさか、わかったと言わないわよね?)

昴と本物の夫婦になろうと約束し、努力している最中なのに、離婚させられてはたまらない。様子を窺っている場合ではないと、慌ててリビングのドアを開けた。

リビングは二十六畳でそれほど広くない。

ここより広い応接室があり、大勢の来客時にはそこを使っているからだ。

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