鉄の女社長は離婚したいのに人たらし御曹司に溺愛される
「私の父は生前、経営者として見習いたいとお義父さんを褒めていたんです。私の中でのイメージも同じだったのですが、残念ながら変わりそうです。会社の運営は経営者だけではなり立ちません、社員あっての会社です。身内をかばっていては、本当に必要な人材は離れていくでしょう。来年の四月に唯華さんを入社させるかどうか、その結果を父の墓前に報告させていただきます」

(私の気持ち、昴さんはわかってくれるんだ……)

彼の静かな怒りも伝わる。

一緒に怒ってくれただけで、少し肩の荷を下ろせた気分になれた。

苦渋の表情で唸る父を残し、絢乃と昴はリビングを出た。

ドアを開けると、トレーに三人分のグラスをのせた水沢が立っていた。

「すみません、入る機会を逃してしまいました」

数分間、ずっとここに立っていたのだろうか。

肩をすくめている彼女にクスッとした。

「先ほどはありがとうございました」

昴がお礼を言ったのは、中に通してくれたことについてのようだ。

「いえいえ」

玄関へと進みながら、水沢が声を落として言う。

「絢乃さんを助けてくださって、私の方がお礼を言いたい気持ちです。大きな声では言えませんが、この家の人たちは昔から絢乃さんにはひどいので」

目配せされて、絢乃は苦笑する。

「やっとお幸せになれましたね」

「ええ、そうね」

水沢に答えながら、本当にその通りだと幸せをかみしめる。

昴と結婚して正解だった。

「私も嬉しいですよ」

「水沢さん、ありがとう」

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