鉄の女社長は離婚したいのに人たらし御曹司に溺愛される
この家にも絢乃の味方はいた。

それに気づくとつらかった過去の思い出にも、少しは色がつくような気がした。

玄関を出て来客用の駐車スペースに向かう。

そこにとめられているのはドイツ製のセダンで、昴の車だ。

自宅マンションの地下駐車場に二台、彼の車があるのは知っていたが、これまで乗せてもらう機会がなかった。

絢乃を右の助手席にのせて昴がエンジンをかけた。

ゆっくりと動き出した車は、水沢に見送られて山城家の門を出る。

初めて見る運転中の彼の横顔はいつもにもまして凛々しく見えた。

鼓動が高まるのを感じながら、父に意見してくれたことにお礼を言おうとした。

けれども交差点で彼が右にウインカーを上げたので気が逸れる。

自宅がある方向とは逆だ。

「どこへ行くの?」

「海だよ。デートを忘れた?」

「延期にする話じゃなかった? それに私、パンプスよ。砂浜を歩けないわ」

「まだ時間はある。砂浜に入らなければ靴も心配ない。海を見ながらのドライブを楽しもう」

「ええ。それならいいわ」

昴は実家での件には触れず、彼が行ったことのある国内や海外の海の話を聞かせてくれた。

おかげで都会の狭苦しい街並みを走る一時間が楽しく過ぎて、視界に海が広がった。

八月も終わろうとしているが、湘南は賑わっている。

海の家もまだ営業しているようだ。

遠くに江の島が見えて、子供の頃の記憶が蘇る。

「小学校の夏休みに母が連れて来てくれたのも湘南だった気がする。それ以来で懐かしいわ」

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