鉄の女社長は離婚したいのに人たらし御曹司に溺愛される
怯えた顔をした部長が退室してドアが閉まると、表情の険しさを解いた。

長めの息をつき、痛む心に言い聞かせる。

(怖がられる存在でいないと。仕方ないのよ)

誰かを叱責するのはストレスだ。

笑顔で許して業績が上がるならそうするが、悪化する未来しか見えない。

厳しい態度を取り続けた結果、陰で〝鉄の女社長〟と噂されている。

血も涙もないようなイメージは嬉しくはないが、それで結構だ。

(鉄仮面か……)

親族顔合わせの日に昴に言われたことを思い出した。

彼も鉄のような冷たく固い印象を持ったようだが、社員とは違い〝仮面〟がついている。

本当の絢乃はそうじゃないと言いたいのだろうか。

よく考えると、たった二回会っただけの女性に対して失礼だ。

鉄仮面を外してみたいからという結婚理由もふざけている。

(あなたに私のなにがわかるというの?)

結婚がますます嫌になったが、すでに火蓋は切られている。

婚姻届を出したのは昨日だ。

昴とふたりで役所に行き、そのあとは新居を確認した。

新居は港区にある新築の高層マンションの最上階で、山城建設が建てて昴の会社が販売していた物件だ。

日曜だったが彼の方に仕事が入っていたため食事もせずに別れ、新居での新婚生活を始めるのは今日からである。

(これからは帰宅しても気が休まらないわね。憂鬱だわ)

ため息をついてから両手で自分の頬を叩いた。

弱音を吐いている暇はない。

< 17 / 237 >

この作品をシェア

pagetop