鉄の女社長は離婚したいのに人たらし御曹司に溺愛される
ブロンドヘアの巻き髪でグラマラスな女性の手が彼の腕に触れた。

昴は笑っていて、会話の声は届かないが親しげだ。

(一夜の相手? それともこっちに恋人がいたの……?)

衝撃を受けて夜景はもう目に入らない。

湧き上がった嫉妬が胸で渦を巻き、息がうまく吸えなかった。

苦しさの中で冷静になろうと努める。

(浮気だとしても、私に責める権利はない。他に女性がいても気にしないと言ったのは私だもの)

健康的な三十六歳の男性なのだから、女性を抱きたい日もあるだろう。

妻とはそういう関係ではないのだから、他で性欲を満たすしかないのだ。

彼を擁護することでショックを和らげようとしたが、苦しさは減らなかった。

(他の女性に触れないで。私だけを見て。お願い、昴さん……!)

心の中で叫んでハッと気づいた。

(私、恋しているんだわ)

胸を焦がすような彼を求める気持ちは、間違いなく恋心だ。

やっとそれに気づけたのはいいが、これ以上ふたりを見ていられない。

声をかけるなど到底無理だ。

涙があふれないうちにと急いで踵を返した。

その瞬間、男性客にぶつかってしまった。

身なりのいいアメリカ人風の中年男性で、大袈裟なほど慌てている。

「ああ、やってしまった。本当に申し訳ない」

そこまで謝ってくれる理由は、彼が持っているグラスの酒が絢乃の服にかかってしまったからだ。

ベージュのジャケットもタイトスカートも茶色いお酒の色に染まっている。

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