鉄の女社長は離婚したいのに人たらし御曹司に溺愛される
退社する時間は決まっていない。急に早くなったり遅くなったりすることがあり、仕事関係者との会食も多々あるので昴と一緒に夕食をとるのは難しいだろう。

自炊経験もないに等しいので、夫のために食事を作って待つ健気な妻を望まれても困るのだ。

昴は『それでいいよ』と軽く答えただけだった。

彼の方からの要求は口調を崩すというものだ。

『仕事関係者と暮らしている気分になるから、君とはラフに話したい』

ビジネス婚だから仕事関係者の色合いの方が強いのではないかと思ったが、敬語をやめて損することはないので了承した。

「お勧めのコース料理を頼んだんだが、それでよかった?」

コース料理は時間がかかるため、早めに注文してほしいと言われたそうだ。

退社前、彼に少し遅れるという連絡はしたがどれくらいかは伝えていなかったので、待たずに注文した方がいいと判断したのだろう。

「ええ。ありがとう」

微笑んで頷いたが、心の中は違う。

コース料理だと二時間ほどもかかるので、時間がもったいないと思った。

食に興味がないから、そういう考え方になる。

子供の頃の食卓はいつも豪華だったが、継母と妹に嫌味を言われながら食べても美味しくなかった。

(私が特殊なだけで昴さんの考え方がきっと普通よね。美味しいものをゆっくり楽しみたいのならつき合うわ。今夜だけ)

普段の食事は別でと話したので、こういう機会はほとんどないはずだ。

今日は新婚生活のスタートだから食事に誘ってくれたのだろう。

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