鉄の女社長は離婚したいのに人たらし御曹司に溺愛される
ポケットを探り、私用の携帯電話を出す。

【今夜、なに食べたい?】と絢乃にメールを送った。

早く帰れると言っていたので、退勤の支度をしている頃かタクシーの中だろう。

メニューが決まれば下ごしらえをしておけると思って聞いた。

けれども返信はない。

気づかないということは、まだ仕事中のようだ。

(まぁ、そういう時もある)

いつもスケジュール通りに仕事が運ぶわけでないのは昴も同じだ。

山城建設の方が事業規模が大きく、加えて生真面目で頑張り屋な絢乃の性格を考えれば昴より毎日が忙しいのは想像できた。

(簡単なメニューにすればいいか。そうだ、親子丼にしよう。かなり帰宅が遅いようなら、ひとり分を先に作って食べればいい。絢乃には顔を見てからできたてのものを出そう)

ゆっくり待つつもりでコーヒーを淹れてソファに座った。

ネクタイを外していると、私用の携帯電話が鳴った。

絢乃からの返信メールだ。

【帰宅できない。しばらくトラブル処理に追われそう】

がっかりするより先に心配した。

彼女なら早く帰れないことに対して謝罪の一文をつけ足しそうなのに、短い報告だけだ。

しばらくという期間の書き方からも、トラブルの大きさが窺えた。

詳しい状況が知りたいが、多忙の彼女には求められないし機密かもしれない。

【わかったよ。俺に力になれることがあるなら遠慮なく言ってくれ】

それだけ返して携帯電話を置いた。

親子丼を作る気にはなれず、ため息をついてテレビのリモコンを手に取った。

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