鉄の女社長は離婚したいのに人たらし御曹司に溺愛される
赤字経営が三年続けば耐えられず、リストラを始めなければならない。

そうなる前に自分がなんとかしなければと焦っていた。

誰も発言しない会議室に、絢乃の声が響く。

「会長にお願いがあります。トラブル対応は的確さと同時にスピードも必要です。こうしていちいち会議を開いていると対応が遅れます。私に一任していただけませんか?」

父からすればまだまだひよっこ社長だろう。

生意気なと言いたげに睨まれたが、静かに視線をぶつけ返す。

(怖くないわ。社員を失うよりは)

数秒して父が嘆息する。

「いいだろう。ただし、私にはやる前に報告するように。この会社を作ったのはお前ではなく私だ。すべてを任せられるほど、まだお前を信じていない」

父が席を立つと、他の重役たちもそれに倣う。

絢乃はノートパソコンを閉じて、ひとり悔しさに下唇を噛んだ。



その日の夕方、自社の社員がやっと地特コンクリートの社長を見つけ、山城建設に連れて来た。

昨日は電話口で啖呵を切っていた稲元だが、今は観念したように大人しい。

ここへ来る前はどこかの現場に立っていたのか作業着姿だ。

四十代後半でがっしりとした体格の彼が背を丸めて小さく見える。

きっと四面楚歌の気分なのだろう。

この会議室で彼を待っていたのは絢乃と父と、当該マンションの建設と販売に関わっていた社員が十名だ。

楕円のテーブルに絢乃と父が隣り合って座っており、稲元の席は向かいに用意した。

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