鉄の女社長は離婚したいのに人たらし御曹司に溺愛される
深々と頭を下げた彼が、工事記録と思われる分厚いファイルをテーブルに置いて腰を下ろす。

「この度は誠に申し訳ございませんでした」

やっと謝罪をした彼に父が低い怒りの声をぶつける。

「稲元さん、大変なことをしてくれましたな。この件での損失予想額は三百億だ。できないのはわかっているので補償は求めないが、逃げずに説明責任は果たすべきだろう」

稲元は持参したファイルの表紙を見つめているだけだ。

返す言葉もないからだと思うが、どことなく不満げにも見える。

その態度にも呆れたが、責めるばかりでは意味がないので聞き取りを始める。

こちらが杭打ち工事を発注してから完了の報告を受けるまで、地特コンクリート側の作業の詳細を時系列に沿って説明させた。

進行役は建設部門の管理職の男性社員だ。

「次に稲元さん、杭の長さ不足に気づいたのはいつですか?」

「八月二十五日月曜日です。うちの若手が支持層のN値の基準を勘違いしていたのが原因です」

N値とは地盤の強度の数値だ。

各社で基準は微妙に違うが山城建設の場合、高層マンションではN値五十以上の層が五メートル以上必要としている。中層マンションは四十、低層で三十だ。

当該マンションは高層なのに地特コンクリートの若手社員が中層の数値で計算してしまったため、打ち込んだすべての杭の長さ不足という結果になったとわかった。

やっと根本的な原因がわかったのはいいが、稲元への不信感がさらに高まった。

絢乃は厳しい目を向ける。

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