鉄の女社長は離婚したいのに人たらし御曹司に溺愛される
彼と後継争いをしているわけではないのに、なぜか焦りだす。

子供の頃から父に、負けることを許されなかったせいかもしれない。

小学校から大学までエスカレーター式で進学したが、成績は首位を維持し続けた。

ピアノやバレエなどの習い事もたくさんさせられ、教室の中でトップでいなければ父から容赦なく叱責された

なぜそこまで厳しくされたのかと言うと、山城建設を継がせるためだ。

勉強や習い事で負けるような人間に、大切な会社を任せられないということだろう。

母が生きていた頃は『絢乃はまだ子供なのよ』とかばってくれたが、『甘やかすな』と父が母を怒鳴るので、それが嫌でがむしゃらに努力し続けた。

友達と遊ぶ暇もないほどなので、恋愛経験はゼロ。

それを寂しいと感じる余裕もなかったが、今考えてみると彩り不足の人生の気もした。

(昴さんは友人が多そうね。なんとなくだけど)

彼と自分を比較して、少しだけ劣等感を覚えた。

けれども無理やり口角を上げ、心を読まれまいとする。

「この鯛、美味しいわね」

「イサキだよ」

「あっ……」

「うん、うまい。上にのってるキャビアの塩加減がいい。絢乃さんと味覚が同じで嬉しいな」

これが父なら『鯛とイサキの区別もつかないのか』と叱られそうだが、昴はサラッと流してくれた。

嬉しいと言って美味しそうに食べている彼に気遣いを感じる。

(私に恥をかかせないでくれたのね)

六歳の年齢差以上に、自分より大人だという印象を受けた。

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