鉄の女社長は離婚したいのに人たらし御曹司に溺愛される
「発覚した時点で相談しなかった理由は? 全戸完売していたといっても八月二十五日はまだ内装工事中。住人に引き渡し前なら補償について交渉しやすかったというのに、なぜ隠したんですか?」

するとパッと顔を上げた稲元が険しい顔で睨んできた。

その上、机まで叩いて噛みつくように言う。

「だから気づいてすぐ、相談したじゃないですか! 隠ぺいしろと言ったのは山城社長でしょう。万が一、明るみになった場合でも全責任は自分が取るとも言ったくせに、今さらしらばっくれるつもりですか!」

(なにを言い出すの?)

建物の強度に関わる問題を、絢乃が隠ぺい指示するわけがない。

嘘までついて保身に走るのかと軽蔑した。

社員たちも稲元の言い分を信じていない様子でざわざわしているが、父には「どうなんだ?」と厳しい声で問われた。

思わず父に対しても眉根を寄せた。

「私が知ったのは昨日です。稲元さん、嘘はやめてください」

「こっちの台詞ですよ。証拠だってあります。山城社長との電話の音声は録音してありますから」

そんなものがあるはずないが、彼の話し方があまりにも本気に見えて一瞬焦りそうになる。

(どうして潔白の私が慌てないといけないのよ)

迫真の演技にのまれないよう、冷静に淡々と言い返す。

「では聞かせてください。その証拠の音声を」

稲元が作業着のポケットから携帯電話を出した。

皆に聞こえるよう音量を最大にし、掲げるように持つ。

静かな会議室内に、稲元と若い女性の電話での会話が流された。

< 211 / 237 >

この作品をシェア

pagetop