鉄の女社長は離婚したいのに人たらし御曹司に溺愛される
『――というわけです。まもなく引き渡しというところまで来ましたのに、このような事態になりまして大変申し訳ございません。つきましてはその件について直接ご説明させていただきたく思います』

『なにやってるのよ! 私の顔を潰す気? バレたら一大事よ!』

『といいますと……隠せということでしょうか?』

『当たり前でしょ。長さが数メートル足りなかったくらいなんでもないんだから、絶対に誰にも言わないで。口が裂けてもよ』

『ええと、その、確認ですが、数値を改ざんすればこのまま進めていいということで?』

『そうよ。それでいいのよ』

『あの、万が一判明した場合の責任の所在は……』

『私が全ての責任を負うわ。私を誰だと思っているの? 天下の山城建設の社長なのよ。なめないで』

『あ、ありがとうございます。ではそのようにさせていただきます』

(この声は、まさか……)

少し似ているが、自分の声ではない。

「どうですか。これが証拠ですよ」

稲元は勝ち誇った顔をしており、ざわざわしている社員の中には絢乃に不審の目を向けている者もいた。

絢乃の背に冷や汗が流れる。

絢乃のふりをして話している人物に心当たりがあるからだ。

「稲元さん、その電話は八月二十五日の何時の電話ですか?」

「十時六分ですよ。携帯に履歴が残っていますから。そちらだって調べれば、固定電話の履歴もわかるでしょうが」

翌週にニューヨーク出張を控えていたから、その日が忙しかったのは覚えている。

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