鉄の女社長は離婚したいのに人たらし御曹司に溺愛される
必死だったので寂しがる暇はなかったが、声を聞けると思うと急に彼が不足して心が飢えていたのを感じた。

(会いたくてたまらない……)

その一方で、こんな大きな問題を引き起こしたのを情けなく思う。

(呆れているわよね。きっと)

疲労が激しいと、悪い方へ考えてしまう。

取引先の中には、厳しい言葉をかけてくる人もいた。

経営者としての昴に電話をかけるのだから、彼にも苦言を呈される可能性はある。

緊張して受話器を握り直すと、保留のメロディが切れた。

『絢乃?』

自宅にいる時のように呼ばれて戸惑う。

「え、ええ。あの、ご存じと思いますが、我が社が施工した江東区のマンションの件で立花社長にお詫びを申し上げたく――」

『大体わかってるから説明も謝罪もいらないよ。それより体調は? 大変だと思うけど、そろそろ帰っておいで。休まないと倒れてしまう』

「昴さん……」

(なんて優しいことを言ってくれるんだろう)

まるで砂漠の中のオアシスだ。

糾弾続きで傷だらけになっていた心に優しさがしみ、涙腺が緩みそうになる。

『絢乃、泣いてるの?』

「いいえ、泣いていられないの」

目頭を押さえながら言うと、電話口でフッと笑う声がした。

『強がりが君らしいな。それならなおのこと帰らないと。家でなら弱音を吐けるだろ? 抱きしめてあげるから、今夜は帰っておいで』

「ええ……。そうするわ。ありがとう」

電話を切ってホッと息をついた。

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