鉄の女社長は離婚したいのに人たらし御曹司に溺愛される
思わず眉間に力が入ると、すかさず大野に言われる。

「旦那様が待っていらっしゃるんですよね? 早くお帰りになってください。ご自宅にいる時だけは仕事を忘れて心身を休めてくださいね」

「ええ。ありがとう」

そのあとは大野が呼んでくれたタクシーで、一週間ぶりに自宅マンションに帰って来た。

ドアを解錠して玄関に入ると、懐かしい気分になる。

それだけ自宅が恋しかったということだ。

パンプスを脱いでいるとリビングのドアが開いて、昴が出迎えてくれた。

「おかえり」

彼も帰ってきてそれほど時間が経っていないのだろう。

ワイシャツとスラックスの上にエプロンをつけている。

部屋着に着替える時間もない中で、絢乃のために夕食の支度をしてくれていたのが想像できた。

優しい笑みを見た途端、脱力するほどホッとした。

体が前のめりに傾いて、抱き留められて心配される。

「横になろう」

「あっ、大丈夫よ。具合が悪いわけじゃなくて気が抜けたの。張り詰めていた気持ちが、一気に緩んだというか。心配いらないわ」

足にも力が戻ったのに、昴が抱きしめている腕を離してくれない。

久しぶりの抱擁は嬉しいが、今は困る。

「昴さん、離して。私、匂うかもしれない」

社屋にシャワーボックスがひとつだけあるが、のんきに汗を流している時間はなく、一週間で一度しか使わなかった。

それが一昨日である。

着替えは秘書に買ってきてもらって毎日していたが、汗臭いのではないかと気にした。

「匂い?」

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