鉄の女社長は離婚したいのに人たらし御曹司に溺愛される
そう言った昴が、離れるどころか首筋に鼻を押し当てた。

「抱きたくなる香りがする」

「ダ、ダメよ。お願い。私が気になるの」

慌てて彼の肩を押すと、クスッと笑われた。

「残念。それじゃ先にバスルームへどうぞ。沸かしてあるから。上がった頃には夕食ができているよ」

抱きたくなると言ったのは冗談だったようだ。

からかわれても嬉しい。

心が解きほぐされていくのを感じていた。

ゆっくりと湯船に浸かり、久しぶりに爽やかな心地になれた。

無地のルームワンピースに着替えてリビングに入ると、和風だしのいい香りがした。

「あっさりメニューの方がいいかと思って」

昴がキッチンでみそ汁をよそってくれている。

ダイニングテーブルの上には体によさそうな手作りの和惣菜が並んでいた。

煮魚にほうれん草のお浸し、茶わん蒸しとふろふき大根、ひじきの煮物。

どれも出来立てだ。

これだけの品数をいっぺんに作れる彼を尊敬する。

「おいしそうね」

「食べられそう?」

返事をする前に絢乃のお腹が鳴った。

恥ずかしさに顔が熱くなる。

みそ汁とご飯をテーブルに置いた昴が、笑いながら絢乃の椅子を引いた。

「最高の返事だ。座って食べよう。俺も腹ペコだ。今日は三時のおやつを抜いたから」

その冗談に笑うと、さらに心が解放された。

彼とダイニングテーブルに向かい合い、「いただきます」と手を合わせる。

アサリのみそ汁をひと口飲むと優しく深い味わいが口内に広がり、今度は泣きそうになる。

< 219 / 237 >

この作品をシェア

pagetop