鉄の女社長は離婚したいのに人たらし御曹司に溺愛される
「しょっぱかった?」

泣くまいと目に力を込めていたため誤解させてしまった。

「おいしすぎて感動して……。昴さんの料理が大好きよ。全部、残さずいただくわ」

せっかく作ってくれた料理が冷めないうちにと、せわしなく箸を動かした。

昴と一緒ならなにを食べても美味しいが、今日は格別だ。

マナーを忘れて頬張る絢乃を、昴が嬉しそうに見ている。

欠乏症のように彼に飢えていた心に優しさと愛情が染みて、心もお腹も満たされた。

食後は四人掛けのソファにひとりで座り、ぼんやりしている。

昴は入浴中で、リビングは食洗器の音だけが聞こえて静かだ。

テレビをつけていないのは番組の合間に挟み込まれるニュースで自社のトラブルが報じられるおそれがあるからで、タブレットも同じだ。

自宅にいる間は仕事を忘れてリラックスしたい。

そう思ったのに、どうしても心配事が頭から離れない。

(どうにかして株価を回復させないと)

株主への緊急説明会は一昨日、開いた。

罵声と怒号が飛び交い質疑応答どころではなく、身の危険も感じたため二時間の予定を一時間半で終了した。

投げつけられたペットボトルが腕に当たったが、株主たちに損害を与えてしまい申し訳ないと思う心の方が遥かに痛かった。

(思い切った戦略が必要よね。でも今は新しい事業を始めている余裕がないわ。頼みは父の辞任発表でどれだけ企業イメージが上がるかだけど、父個人と懇意にしている取引先も多いから発表時期は慎重に決めないといけない)

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