鉄の女社長は離婚したいのに人たらし御曹司に溺愛される
『新しい一歩を踏み出したのは絢乃と私ですが、お義父さんが山城建設を作らなければその一歩もなかったんです。私は深く感謝しています。創設者として胸を張ってください。お義父さんなくして門出の式典は開けません』

父が涙ぐんだのを見たのは初めてだった。

昴の言葉は人の心を動かす力を持っている。

絢乃もそのひとりで、彼のおかげで復讐から心を離せた恩は忘れていない。

休憩用に百席並べられた椅子の後列の端に、父がポツンと座っていた。

辞任から三か月ほどしか経っていないのに、かなり老け込んだように見える。

丸くなった背に覇気はなく寂しげだ。

(今のお父さんには、守りたいものがなにもないからかしら……)

父の人生そのものだった会社経営から離れたのが一番こたえていると思われるが、ひとり暮らしなのも理由かもしれない。

山城家の実家は売り払い、父は所有していたマンションに引っ越した。

辞任する少し前の、山城家での騒動を思い出す――。

日曜日だったその日、絢乃の自宅の固定電話が鳴った。

また継母からかと思い警戒しながら出たが、かけてきたのは山城家の家政婦の水沢だった。

『大変なんです。唯華さんが大暴れしていて、警察を呼んだ方がよろしいでしょうか?』

唯華が手当たり次第に物を掴んでは、父に投げつけているという話だった。

今のところ怪我はないと聞いて警察を呼ぶのは待ってもらい、すぐに昴と車で駆けつけた。

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