鉄の女社長は離婚したいのに人たらし御曹司に溺愛される
いつも怖かった父が今は弱々しく見えた。

(もう恨みたくない。お母さんを追い詰めたことも、私のつらさをわかってくれなかったことも。お父さんを許すわ……)

父へのわだかまりがほどけていくのを感じた。

心に余裕ができると優しい気持ちを向けられる。

「お父さんの選択で、もうひとつ成功したことがあるわ」

顔を上げた父が、少しも思い当たる節がないと言いたげに眉根を寄せた。

絢乃は隣に視線を向ける。

「私に昴さんとの結婚を勧めてくれたことよ。おかげで今、とても幸せだわ」

微笑みかけると昴がユーモラスにウインクを返してくれるから、吹き出した。

「やめてよ。まだ終了していないんだから気を抜かないで。せっかく取り戻せた信用を失ってしまうじゃない」

「そういう絢乃こそ気を抜いているだろ。鉄仮面を外して大笑いしていていいのか?」

「問題ないわよ。第一、外したのはあなたじゃない」

父が目頭を押さえて何度も頷いている。

「年を取ると涙もろくなっていかん。なにもかも手放したというのに、清々しい気分だ。昴くん、絢乃、ありがとう」

父と握手を交わしてそばを離れた。

「昴さん、なにか食べた?」

「そんな暇はない。絢乃は?」

「私も。お腹空いたわね。帰ったら、たこ焼きにしない?」

「好きだな。先々週もやっただろ。まぁ、俺からも同じ提案をしようと思ってたけど」

夫婦の会話が聞こえたようで意外そうな視線を向けてくる人もいたが、気にしない。

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