鉄の女社長は離婚したいのに人たらし御曹司に溺愛される
キャスターと解説者の会話にのんきに笑っている。

(自然体を装っているとか……そんな感じじゃないわね。緊張感ゼロだわ。まさか、初夜はなし?)

早く子供が欲しいので抱いてくれないと困る。

その気があるのかないのかが気になり、チラチラと横顔を盗み見た。

(明日は平日だから?)

絢乃に気を使い、週末まで待とうとしているのだろうか。

(そんな配慮はいらないのに。私から誘うしかないの?)

そう思ったが、初心者なので実行するのは難しい。

(どう言えばいい? 『そろそろベッドに入りましょう』とか? 色気が足りない気がするわね。シンプルに『抱いて』の方がいいかしら)

少し悩んで誘い文句を決め、経済ニュースを閉じてタブレットを木目の天板に置いた。

「昴さん」

背筋を伸ばして隣に声をかけた。

かつてこんなにも緊張したことがあっただろうか。

子供の頃から父の高い要求に必死に応え続け、社会人になってからもいくつもの試練を乗り越えてきた絢乃だが、自分の速い鼓動を耳にしたのは久しぶりだ。

「寝るの?」

一緒にという意味ならありがたいが、くつろいだ顔のままなので違っていそうだ。

案の定、「おやすみ。俺ももう少ししたら休みむよ」と言われてしまった。

(言わないと伝わらない。何事もそうよ)

勇気を出して口を開く。

「だ――」

たった三文字『抱いて』と言うだけで済むのに、恥ずかしすぎて言葉に詰まった。

不思議そうな顔をされて焦り、咄嗟にごまかす。

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