鉄の女社長は離婚したいのに人たらし御曹司に溺愛される
腹違いの妹も出席予定だったが直前になって『面倒くさいから行かない』と言い出し、父がそれを許した。

父は絢乃にはかなり厳しく接してきたのに、妹にはなんでも買い与えて甘やかした。

姉妹で愛情に差をつけられて育てられ子供の頃はつらかったが、今はどうでもいい。

ただひとつだけどうしても許せないのは、母に対する仕打ちだ。

(お母さんの代わりに私が復讐するわ)

そのために今は、仕事も結婚も父の言うなりになって耐えている。

いつか父の一番大切なものを奪うために。

会食が始まって一時間半が経ち、やっと最後の水菓子が出された。

上品なあんみつと美しく飾り切りされた果物の盛り合わせを、なんの感動もなく口に運んで木匙を置くと、昴に声をかけられる。

「絢乃さん、ふたりで庭園を散策しませんか? 菖蒲がきれいに咲いているそうですよ」

(花を愛でたい気分じゃないわよ)

仕事で心配な案件をひとつ抱えているので早く出社したいが、主役なのでできない。

婚約者の気分を害して得するものもないので、仕方なく微笑んだ。

「ぜひご一緒させてください」

クラッチバッグを手に立ち上がる。

昴と連れ立って座敷を出て、ホテルの広い裏庭へ足を踏み入れた。

(すてき……)

このホテルは商談で何度か利用したことがあるけれど、裏側に広がる庭園を見るのは初めてだ。

五月中旬の空は水色に澄み、心地よい午後の日差しが降り注いでいる。

和風庭園には松や紅葉が植えられて、鯉の泳ぐ池に太鼓橋が架けられていた。

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