鉄の女社長は離婚したいのに人たらし御曹司に溺愛される
それに加えて不思議な懐かしさを覚え、なぜだろうと考えるほど彼女への興味が膨らんだ。

結婚を決めた理由はそれが三割、ビジネスでのメリットが七割といったところだろう。

始まった新婚生活は、想像通りまったく甘くない。

初日に体の関係を彼女の方から求められたのには驚いたが、まるで仕事の一貫であるかのような義務的な感じがしたので断った。

意志の強そうな目の奥に、抱かれたくないという本音が見える気がしたからだ。

いつか惹かれ合う日が来たらその時は――と思うが、果たして実現するかは今のところなんとも言えない。

(まだ始まったばかりだ。ゆっくり距離を詰めればいい)

黒革の通勤鞄を提げて社長室を出ようとすると、スーツの内ポケットで私用の携帯が震えた。

取り出して確認すると、妻からのメールだ。

【急な会食の予定が入ったので帰宅は遅くなります。明日は母の月命日で、母の実家に行きます】

普段の食事は別々にとる約束なので、帰宅時間が遅くてもなにも問題はない。

泊りの出張だけスケジュールを報告し合おうと話していたのだが、律儀に理由までつけて帰宅時間と明日の予定を教えてくれた。

昴が余計な心配をしたり、気を回したりしないようにという配慮だろう。

(俺に気を使ってくれたのか。ほら、心まで鉄じゃない。いつかは本音で話し合える日が――ん?)

了解を返信してからふと引っかかりを覚え、絢乃のメールを読み直した。

(母の月命日?)

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