鉄の女社長は離婚したいのに人たらし御曹司に溺愛される
訃報の連絡はもらっていない上に、半年前は元気だったのにと疑問に思う。

親族顔合わせの日に会った義母は、若い頃はかなりの美人だったと思わせる容姿をしていた。

高級な和服を着こなし話し上手で、淑やかさより華やかさを感じた。

絢乃も美人だが、母親には少しも似ていない。

(そういえば)

顔合わせが終わった帰路のタクシーの車内で、母が独り言を言っていた。

『あの人が後妻さんなのね』

きっと絢乃の産みの母が亡くなって、義父が再婚したのだろう。

会食の席での義母に悪い印象は受けなかったが、同年代の母は違うのか不快感があるような口ぶりだった。

(絢乃さんの母親はいつ亡くなったんだ?)

彼女が幼い頃なら余計に気の毒に思えた。

月命日のお参りに母の実家に行くということは、位牌がそこにあるのだろう。

義父のもとに位牌を置いておけない事情はわからないが、複雑な家族関係を思わせた。

(聞いたら話してくれるだろうか? 距離を縮めるには、俺の方から妻を知る努力をしないと)

気にしないでと鉄の笑顔でかわされる予感もするが。

「社長、おつかれさまです」

「おつかれさま。君たちも切りのいいところで仕事を上がって」

社長室を出て階段で下り、社屋の外に出るまでに二十人ほどの社員の挨拶に笑顔で答えた。

六月上旬の空はまだ明るさを残し、蒸し暑い。

スーツのジャケットを脱いで小脇に抱え、足早に電車の駅を目指す。

最寄り駅ではなく、ひとつ先の駅だ。

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