鉄の女社長は離婚したいのに人たらし御曹司に溺愛される
学生時代は陸上部で中距離を得意としていた。

運動は日常生活の一部だったのだが、社会人になってからはその時間がかなり減ってしまった。

それで通勤では車を使わず、時間があればひと駅ふた駅、歩くようにしている。

ひと駅先の駅前の交差点まで来て信号待ちをしていると、隣に並んだ男性に声をかけられた。

「あれ? 昴?」

「和志(かずし)か。久しぶり」

三条(さんじょう)和志は中高一貫校で同じ陸上部に所属し、親しかった友人だ。

別々の大学に進学してからも年に二、三回は会っていたが、社会人になるとお互いに忙しく交流が途絶えていた。

スーツ姿なので和志も仕事を終えて帰宅するところなのだろう。

職場が変わっていなければ、この近くにある大手スポーツ用品店の本社に勤めているはずだ。

「懐かしいな。百年ぶり?」

人懐っこそうな焦げ茶色の目が弧を描いた。

短めの髪に素朴な笑顔。冗談好きな明るい性格は変わっていない。

高校時代の陸上部の中で一番小柄な百六十八センチだったが、ムードメーカーで存在感は誰より大きかった。

「百年って、俺たちいくつだよ。十五年ぶりか」

「そのツッコミ気持ちいい。変わってなくて安心するわ」

「和志も変わってない。お互い、大して成長してないということか」

苦笑しているのは昴だけで、和志がなぜか胸を張った。

「俺は成長したよ。今、百六十九センチ。来年あたり百七十の大台に乗ってる」

「この年で成長期? すごいな」

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