鉄の女社長は離婚したいのに人たらし御曹司に溺愛される
「当たり前だろ。俺を常人の枠に入れんな」

ひとしきり笑ったあとは和志に誘われる。

「時間ある? 飲もうぜ。久々すぎて緊張するけど」

「緊張感ゼロの顔してなに言ってんだ。そこの居酒屋に入ろう」

一瞬で学生時代の親しかった距離感に戻された。

心だけが少し若返った気分で居酒屋の暖簾をくぐる。

駅前ビルの一階に大きな看板を掲げる大手チェーンの居酒屋で、学生時代によく利用した店だというのも懐かしさに拍車をかけた。

金曜なので満席に近いが、運よくふたりがけのテーブル席だけ空いていた。

男ふたりだと窮屈に感じるが、他の店を探そうとはお互いに言わない。

早く積もる話がしたいからだ。

焼き鳥などのつまみをいくつか注文し、生ビールで乾杯する。

「実はさ、去年の秋に昴に電話したんだよ。繋がらなかったけどな。連絡先、変えたなら教えろよ」

「悪い。そのうちと思っていたら忘れていた」

「俺の存在、その程度?」

大袈裟に傷ついた顔をする友人に苦笑する。

「去年の秋になにかあったのか?」

用がなければ十年以上交流のなかった相手に連絡しようとは思わないだろう。

すると和志が「まぁな」と意味ありげな笑みを浮かべた。

スラックスのポケットから携帯を取り出して画面を見せてくる。

紺色の腹掛に白い股引と足袋。祭りの服装をした和志が大勢の男たちと神輿の綱を引いている短い動画が再生された。

「去年の十月にだんじり祭りに参加したんだ。だんじり、知ってる?」

(また、だんじり?)

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