鉄の女社長は離婚したいのに人たらし御曹司に溺愛される
池の奥には見頃の菖蒲が群生している。

花を愛でる気分じゃないと思っていたが、実際に目にするといくらか心が和んだ。

「見頃のようですね。橋の向こうまで行きましょうか」

「ええ」

白砂の散策路を昴と並んで歩く。

八センチヒールのパンプスを履いているのに、彼の目線の方が十センチほど上にある。

それが少々居心地悪い。

絢乃にとってヒールの高いパンプスは戦闘靴のようなものだ。

これまでのビジネスシーンにおいて、若い女性であることが足を引っ張った経験が多々ある。

からかわれたり隣にいる部下の男性の方を向いて話を進められたりと、軽視されてそのたびに奥歯を噛んだ。

ビジネス相手の男性の年齢が高いほどその傾向が強いように思う。

だから戦闘靴を履く。

相手より目線が高い方が舐められない、というのが経験上の気づきだ。

近づいて見た太鼓橋はアーチが急だった。

転ばないように慎重に一歩を踏み出すと、隣から手を差し出される。

「掴まってください」

足元に不安があるのを察し、手を貸そうとしてくれる彼は紳士的だ。

頬を染めて手を取るのが正解なのかもしれないが、絢乃は迷うことなく断る。

「お気遣いありがとうございます。でもこのくらいは平気です」

今まで一度も男性に頼りたいと思ったことはない。

そもそも恋愛も交際も自分には不要と思い、経験がないのだが。

親切を無下にされたと感じさせないように、口角を上げて褒めておく。

「昴さんはお優しい方ですね」

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