鉄の女社長は離婚したいのに人たらし御曹司に溺愛される
「また今度、ゆっくり話そう。今日は和志に会えてよかった。絢乃さんの話を聞かせてくれてありがとう。少し謎が解けた気分だ」

「謎?」

子供の頃のひと夏の話をすれば長くなりそうだ。

運命だと言っていた恋人を待たせて喧嘩になっては気の毒なので、今その話はしない。

「絢乃さんからも、だんじりを知っているかと聞かれたんだ。取引先の相手が祭りに参加したと言っていたが、お前のことだったんだな」

「たしかに絢乃に話したわ。俺って取引先だったのか」

笑いながらふたりで席を立った。

教えていなかった連絡先を交換し、会計を済ませて外に出た。

「急ぐから先に行く。またな」

「ああ。また会おう」

駅の入口へと走る友人の背を見送ってから、昴も歩きだす。

すっかり夜の帳が降りた空には、星がふたつだけ見えた。

(子供の頃に絢乃さんと見た空は、たくさんの星が輝いていたよな)

当時、昴は小学六年生だったと記憶している。

ということは絢乃は五歳だ。

昴でもやっと思い出せたくらいなので、幼かった彼女が覚えているとは考えにくい。

(聞いてみたいが、まったく覚えていないと言われたら寂しいよな)

五歳の絢乃は大きな目が印象的な素直で優しい女の子だった。

母親に守られて幸せそうで、心から楽しそうに笑っていた。

クールな性格に育ったのは、母親が亡くなってからの不幸な境遇のせいなのか。

昴に向けられる笑顔は作りもので、決して外れない鋼鉄製の仮面のようだ。

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