鉄の女社長は離婚したいのに人たらし御曹司に溺愛される
膝の上の通勤バッグに携帯をしまい、代わりに無地のポーチを手に取った。

その中から出したのは、すっぽりと手のひらに収まるサイズのうさぎのマスコット人形だ。

フェルト生地で目は赤いビーズ。ピンクのワンピースを着ている。

上手な手縫いだが二十五年近い年月が経っているため、もとは真っ白だった肌がほんのり黒ずんでいた。

これは幼い頃に母が作ってくれたもので、絢乃の親友だ。

なにかに迷った時やつらくてくじけそうな時、こっそりと手のひらにのせて話しかけている。

「ねぇ、うさちゃん。色気ってどうやって出せばいいのか教えて」

(強引に寝室に押しかければいいんじゃない?)

「そんなはしたないことできないわ。初心者だもの。昴さんの方から迫ってくれると助かるんだけど。どうしたらその気にさせられるのかがわからないのよ」

親友は十秒ほど黙ってから、赤いビーズの目を輝かせた。

(今夜の食事って、チャンスじゃない?)

「チャンス?」

(どんどん飲ませて酔わせちゃえばいいのよ。酔った男性って、大抵スケベでしょ)

「なるほど」

仕事上の会食や接待で男性とお酒を飲む機会はよくある。

重役になる前のただの管理職だった頃は酔った男性に肩を抱かれたり、膝を撫でられたり、不快な思いをしたことが何度かあった。

ホテルに誘ってきた人もいる。

しらふの時は冗談でもしそうにない誠実な男性が、酔って理性のタガが外れると獣になるのは経験上知っていた。

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