鉄の女社長は離婚したいのに人たらし御曹司に溺愛される
悔しくてもそれを悟られてはいけない。

こちらが喧嘩腰では、いくら酔わせても甘いムードにならないと思うからだ。 

「昴さん、お待たせしてごめんなさい……えっ?」

明るいリビングに一歩足を踏み入れて、目を瞬かせた。

ダイニングスペースの対面式キッチンで、エプロン姿の昴が包丁を持っている。

(まさか、料理してるの?)

戸惑いながら近づくと、彼が微笑んだ。

「おかえり」

「ただいま。一緒に食事をする約束は今日よね?」

「そのつもりで準備してたよ」

大きなステンレス製のボウルに小麦粉を水で溶いたようなものが入っている。

みじん切りのキャベツに天かす、紅生姜などが用意されていて、まな板の上で彼が切っているのはたこ足だ。

四人がけのダイニングテーブルを見ると、丸い窪みが並んだホットプレートがのっていた。

(これって、もしかして……)

目を丸くする絢乃に昴がなんてことない口調で言う。

「たこ焼きにしたんだ。着替えておいでよ。一緒に焼いて食べよう」

意識しなければ笑顔をキープできない。

(家にお酒を置いてないわよ。酔わせられじゃない。それに、夕食にたこ焼き? 学生じゃないのよ?)

バカにされている気がした。

無言で立ち尽くしていると、昴が視線を手元から絢乃に移す。

「たこ焼き、苦手?」

そう聞いてきた表情は自然で、裏心があるように感じない。

(昴さんにとって、夕食にたこ焼きを作るのは普通なのね)

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