鉄の女社長は離婚したいのに人たらし御曹司に溺愛される
思い直すと同時に、普通じゃないのは自分の方かもしれないと思った。

食に興味がないので、彼の感覚の方が正しい気がする。

(計画倒れは残念だけど、たこ焼きに文句を言ってはいけないわね。せっかく準備してくれたんだから感謝しないと)

「たこ焼きは好きよ。準備をありがとう」

部屋着の無地のワンピースに着替えをしてリビングに戻ると、昴がホットプレートに油を引いていた。

落ち着かない気持ちで向かいの椅子に座る。

「私はなにをすればいいの?」

「生地を流し入れてもらおうか」

大きなボウルにステンレス製のお玉が入っているので、きっとそれを使うのだろうと手に取った。

たこ焼きを作るのは初めてだ。

ホットプレートのひとつずつの窪みからはみ出さないように慎重に生地を注いでいると、昴に笑われた。

「適当でいいんだよ。ちょっと貸して」

手と手が触れて動揺したのは絢乃だけのようだ。

彼は平然とお玉を受け取って、文字通りどんどん流し入れていく。

ジュージューと焼ける音がして湯気とともにいい香りも漂う。

「絢乃さん、具材を入れて」

「どれから?」

「順番なんかどうでもいいんだよ。適当に、楽しくやろう」

そうは言われても、失敗したらと思うとどうしても慎重になる。

手伝ってもらいながら、なんとか二十四個の窪みにすべての具材を入れ終えた。

その上からもう一度生地を注いで、ホッとする暇もなく昴の指示が飛んだ。

「ほら、たこ焼き用のピックで焼けたところからひっくり返して」

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