鉄の女社長は離婚したいのに人たらし御曹司に溺愛される
「嘘じゃない。元々の君は素直で、頭も心も柔軟だとわかっている」

(元々? 言い方がおかしいわ。私のなにを知ってると言うのよ)

受け入れたくない人たちと家族を演じながら、どれだけ苦しい子供時代を過ごしたことか。

お世辞で言っただけだとしても、絢乃の過去を知らない彼にわかったような口を利かれたくなかった。

美味しいたこ焼きで緩んだ心がまた硬くなる。

猫のような目で彼を見ながら、口角だけは意識して上げた。

「素直で柔軟? どうかしらね」

さらに笑みを強めようとしたその時――。

ニッと口の端を上げた昴がテーブル越しに手を伸ばし、絢乃の口にたこ焼きを入れようとした。

驚いて避けたため、ソースが絢乃の鼻頭についてしまう。

「ごめん」

悪びれずに謝った彼の唇には、青のりがついていた。

「昴さん、青のりがついてるわよ」

悔しいので笑い返すと、彼が真顔になって相談してくる。

「鰹節はどっちの顔につける?」

(は……?)

たこ焼きソースとトッピングを顔につけ合う夫婦がどこにいる。

想像するとおかしくなって吹き出した。

昴の目が嬉しそうに弧を描き、一緒に声を上げて笑う。

「たこ焼きにして正解だった」

「え?」

「こういうのが好きそうだと思ったんだ」

(どういう意味?)

取引先の男性から個人的に食事に誘われたことが何度かある。

興味がないのですべて断ったが、お洒落な有名店や格式高い高級店の名をあげて誘われた。

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