鉄の女社長は離婚したいのに人たらし御曹司に溺愛される
夕食の準備中か食べ始めている頃だろうと気遣い、インターホンは押さずに合鍵を使って引き戸を開けた。

合鍵は母が亡くなった子供の頃に、『つらい時にはいつでも帰っておいで』と祖母が渡してくれたものだ。

「お邪魔します」

広いたたきでパンプスを脱いでいると、廊下の奥からパタパタとスリッパの足音がして伯母が現れた。

パーマをかけた短めの髪に小柄な背丈。いつも笑顔の明るく優しい人だ。

「絢乃ちゃん、おかえり」

「ただいま。伯母さん、急に来てごめんなさい。これ、お土産のフルーツよ」

「もう、気を使わないでっていつも言ってるのに。でもありがとう。食後にみんなで食べましょう。お腹空いたでしょ。今日はすき焼きよ。早く早く」

この家で夏にすき焼きをするのは珍しい。

背中を押されて急かされながら、やけに張り切っているのも気になった。

「なにかのお祝い?」

「そうよ。きっと驚くわ」

ウフフと笑っている伯母と一緒に艶やかな床板の廊下を進む。

華族の絢爛豪華さが随所に残されている邸宅は、和洋折衷の趣があって素敵だ。

リビングと完全に別れた場所に食堂があり、そのドアを開けた。

(驚くってなにかしら)

八人掛けのダイニングテーブルですき焼きの鍋がぐつぐつと煮えていた。

亡き母に目元が似ているおっとりとした性格の伯父と、和装の祖母が向かい合って座っている。

和志は伯父の隣で、その横に見知らぬ若い女性がいた。

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