鉄の女社長は離婚したいのに人たらし御曹司に溺愛される
とは言っても正式に婚約していたわけではなく、口約束だ。

『お前の息子と俺の娘を結婚させよう。孫ができたら、最強の実業家になると思わないか? なんたって俺たちの血が入っているんだから』

酒を酌み交わしながらそのような話をしたのだと中学生の頃に父から聞かされ、自分には婚約者がいるのだと数年間は思っていた。

しかしそれっきりだったので自然消滅したものと考えていたのだが、昨年の秋に結婚するよう父に言われて驚いた。

親友が亡くなってから、あの時の約束をなんとしても守らなければと思ったそうだ。

父への返事は『はい』のみなので断れなかったが、できることなら結婚したくないと今も思っている。

結婚にいいイメージを持てないのは、父に苦しめられる母を見て育ったからだろう。

それに今は仕事に集中したく、よく知らない相手との共同生活は煩わしい以外のなにものでもなかった。

正直な気持ちを伝えて破談になれば父を怒らせてしまうので、心にもない返事をする。

「昴さんが素晴らしい方だと父から伺っておりましたので。実際にお会いしてみて、その通りだと思ったんです。私の方にはお断りする理由がありません」

頬は染められないが、この回答で正解だろう。

彼だって上辺の答えしか期待していなかっただろうから。

それなのに、なぜか残念そうな顔をされる。

「本心を隠すのがお上手ですね」

(えっ、まさか正直に言ってほしかったの?)

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